1. 誕生と京への旅立ち
応天門の変にによって伊豆に流罪となった伴野善男の子孫、伴笹丸(ばん の ささまる)とその妻・菊世(きくよ)の間に生まれる。二人の間には長らく子がおらず、第六点魔王に祈った結果、女の子を授かり、937年に生まれたと伝わる。呉葉(くれは)と名づけられた。やがて呉葉は美しい少女に成長する。

その美貌は世間に広く知られる事となり、近在に住む豪家の息子・河瀬源吉(かわせ げんきち)は呉葉に恋焦がれて彼女との結婚を強く望み、河瀬家から呉葉を嫁に欲しいとの申し出が来るが、呉葉を都に出す考えの笹丸はこれを辞退。都で一旗揚げる野望を持つ笹丸にとって呉葉は大事な切り札であり、田舎の豪農に嫁がせるつもりは毛頭無かったと思われる。
河瀬源吉のしつこい申し出に、呉葉は一計を案じる。第六天に祈り、術をつかってもうひとりの自分を出現させる。偽の呉葉を河瀬家に嫁がせて、結納金を手にした笹丸一家は姿を消して京都に向かう。偽呉葉と祝言をあげて、喜びに浸る中、嫁の呉葉は忽然と消える。河瀬源吉(かわせ げんきち)は必死に呉葉を探し回るが当然見つかるはずも無い。
笹丸は伍輔(ごすけ)、菊世は花田(はなだ)、呉葉は紅葉(もみじ)と名を改めて京の都で新たな人生が始まる。伍輔は四条通に櫛や履物等を扱う店を開き商売を生業とした。

紅葉は琴の教室を始め、町の人に琴を教えた。
ある日、通りかかった源経基の御台所が紅葉の琴の音を耳にすると、その音色に惹かれた御台所は紅葉を召し抱える事になる。
才覚によりあっという間に局(つぼね)までに昇進した呉葉であった。その才覚美貌と琴の評判は経基の耳にも入り、ある宴の席で呉葉は琴の演奏をする事となったが、当然の結果と言える寵愛を受ける事とになり、呉葉の地位、影響力は大きなものとなった。やがて、経基の子を身籠ると呉葉は内に秘めていた野望を叶えるべく動き出す。正室の御台所がいなくなれば、自分は妾から正室の座に就けると。そうなれば、父親の伴野笹丸が武士となり伴野家の再興が叶うと。
呉葉は呪詛を御台所に対して行った。日を追って、体調を崩して弱っていく御台所を呉葉は付きっきりで看病したという。しかし看病する傍らで怪しげな祈祷をする呉葉の姿を目撃した者が密告して、取り調べの結果、呪詛をかけようとしたことが発覚する。
経基は呉葉を寵愛したことは過ちであったと悟った経基は自身の過ちを隠すために呉葉を信濃の国の戸隠山の奥地に流罪に処する。こうして呉葉は山深い鬼無里に流され鬼無里の鬼女紅葉の伝説が始まるのであった。

2. 鬼無里での紅葉の暮らし
紅葉が鬼無里で暮らしていた居住地の跡が奥裾花渓谷への道路脇に残っている。
内裏屋敷跡である。この場所に地元の人々の支援によって建てられたという。
都から来られたお姫様ということでお内裏様と呼ばれていた。
紅葉は村の人達に都の話をしたり、読み書きを教えたり、薬草から薬を作り与えたりして村の人から尊敬される存在となった。やがて経基公の血を引く男子が生まれ、一字を取って「経若丸」と名付けた。

3.鬼になった紅葉、そして朝廷軍との戦へ
決して裕福な生活とは言えないが、経若丸とのささやかな暮らしの日々が過ぎていく中で、
紅葉の心の中には都への思いが段々と強くなっていった。京の都に帰る為の資金を稼ぐために紅葉は夜ごと男に化けて、近隣の金持ちの家を襲い金品を強奪するようになった。
悪事を重ねる紅葉の評判は広がり、
「鬼武(おにたけ)」、「熊武(くまたけ)」、「鷺王(さぎおう)」、「伊賀瀬(いがせ)」という平将門の子孫と称する4人の盗賊は紅葉に対して手下になれと挑戦するが、返り討ちに合い紅葉の手下となる。また「怪力女のおまん」も手下にくわわる。これらの荒くれ者を配下に加え更に悪事がエスカレートすると、金品のみならず、人さらいもするようになり、人の生き血をすすり、人肉も喰らうようになっていったと云う。もはや人としての理性は失われ鬼になってしまったという。
盗賊の頭となった鬼女紅葉は住まいを荒倉山に移して更なる勢力を拡大していった。

「信濃の鬼女の盗賊が都に攻め上って来る」そのような噂が都の朝廷にも広がり、遂に
朝廷は信濃守 余吾将軍 平維茂を鬼女紅葉討伐に命ずる。
平惟茂は250名余りの手勢を引き連れて信濃の国へ。

塩田平(上田市塩田)に入ると、千曲川、犀川沿いに進み笹平(長野市七二会)に陣を構えた。家臣の真菰次郎・河野三郎に150騎を引き連れて笹平から山道を進み裾花川の藤橋で
賊軍に攻撃を仕掛けるが、紅葉の幻術により、火の雨が降り、押し寄せる濁流に50騎余りが犠牲となり退却を余儀なくされる。
このままでは勝てないと悟った平維茂は別所の北向観音に17日間参詣して祈ったところ
夢枕に現れた老僧が、維茂を雲に乗せて紅葉の住む岩屋の場所を示し、一振りの短剣を授けた。それは紅葉の霊力を封じる降魔の剣であった。
降魔の剣を授かった平維茂は全軍を率いて荒倉山に向かう。

紅葉の軍はその頃、毎夜酒宴を開き勝利の酒に酔っていた。「討伐軍恐るに足らず」
「攻めて来たら再度返り討ちにしてやる」と意気揚々であった。

そして、平惟茂の討伐軍が再び攻め上って来て、紅葉賊軍が構えていた第一の木戸が突破されて第二の木戸に迫って来たのを見た紅葉が妖術を使うも、全く効かない。
術が効かないばかりか、体がいうことをきかない。
維茂が手にする降魔の剣が紅葉の魔力を封じているのだ。
霊力を封じられた紅葉はおいつめられる。その最中、経若丸が討ち死にしてしまう。
我が子の最期を目の当たりにして、紅葉は怒り狂い火炎を吹き出し惟茂に襲いかかったが、
惟茂は降魔の剣を矢につがえこれを射ると紅葉の肩に突き刺さり、紅葉が地に墜ちたところ
を配下の金剛太郎が剣を紅葉の脇腹に突き刺した。
紅葉が最期の力を振絞り金剛太郎の腕をつかむと彼を引き倒し足で踏みつけたが、
維茂が紅葉の首を太刀で斬り落とし紅葉は絶命した。
安和2年(969年)10月25日、紅葉33才であった。鬼無里の山は血に染まるような深紅に染まっていたと伝わる。





